恋のカラ(オケ)騒ぎ8
だた、絶対に自信が有りました。
「今のはクリスだ!!」
その後ろ姿を見た瞬間
私はその姿をクリスだと確信したのです。
辞めたと言われていたクリスですが
その後ろ姿を
私は見逃しませんでした。
驚いた私は直ぐにママさんに
聞いてみました。
「ママ!クリスがいるの?」
ママさんが答えます。
「ハイ。」と
そして何やらバツが悪そうでした。
「キノウ オミセ モドッテ キタ。」
「マジ!でぇー!」
「言ってよぉー!」
「ハイ、ゴメンナサイネ。」
驚きました。
辞めたと言われたクリスが
戻ってきていたのです。
私は残りのセット後半は
もう彼女の事で頭がいっぱいでした。
ただ、今横にいるミュも
とても気に入っています。
「あ~何という最悪のタイミングだ!」
そう思いました。
ママさんに聞くと
一度辞めた?休職した?クリスが
たまたま昨日帰って来たようです。
こちらの夜嬢(やじょう)達は
今日から働くや今日で辞める。
そんなのは普通のようで
いついつで辞めさせて下さいや
いつから働かせて下さいなどの
前もって告げ無い子も多いようです。
店側もそんな事には慣れているのか
(問題が有るかもしれませんが)
出入りを案外簡単に
受け入れているようですね。
なので多分クリスもいきなり
戻ってきたのでしょう。
私に動揺が走りました。
後1週間クリスが戻ってくるのが
早ければ
私はミュに会わずに済んだのです。
もうミュは
私のお気に入りホルダーに
保存されてしまいました。
いまさらクリスがいいとは
言い出せません。
しかし私は元々この店が
好きになったのは
クリスがいたからです。
そんな時丁度ミュが
トイレに立ちました。
私は自分の思っている事を
正直にジュゴンママに打ち明けました。
するとママの答はこうでした。
「ダイジョウブ カノジョタチ
ミンナ プロ。」
「ダレ エラブ モンダイナイ。」
なるほど、さすがこの道のベテラン。
カルロス・ゴーンのような
ドライな考え方です。
とは言われても
女に関しては超がつくほどの
優柔不断な私。
「困った。」
「どうしよう。」
「今度からは1時間ごとに
交互に指名するか?」
な~んて馬鹿な事を
考えたりしました。
そうこうするうちに1時間が過ぎ
私にチェックの時間がきたのです。
ミュにチップを渡し
「楽しかったありがとう。」
(後半はうわの空)
とお礼を言いました。
扉を開け外に出るとレディ達が
イスに腰掛け待機していました。
私は直ぐに忘れもしない
クリスの後ろ姿を見つけました。
彼女の横に立つと
彼女も私に直ぐに気づき
驚きながら立ち上がり
微笑みながら
近づいてきたのです。
彼女は私が背を向けていたので
気づいていなかったようでした。
「やぁ、久しぶり。」
彼女に微笑みかけました。
やはり嬉しかったですね。
彼女は大のお気に入りでしたから。
「辞めたんじゃなかったの?」
そう聞くと。
「オカアサン ビョウキ
イナカ モドッテイタ。」
なるほど彼女も
実家に子供がいるので
面倒を見てくれている母親が
病気になれば
戻る必要があったようです。
「会いたかったよ。」
私はそう言って用意していた
少しのお金を渡してあげました。
彼女は少し
驚いたような顔をしましたが
それを受け取りました。
そして私を見つめて
彼女がいきなり
私に抱き付いてきたのです。
驚きました!!
チップのお礼なのか
はたまた久しぶりの再会を
喜んでくれているのかは
分かりませんでした。
彼女の胸が私に強く押し付けられ
彼女の体温が伝わってきます。
彼女の髪のとてもいい香りがし
私は体が熱くなるのを感じました。
そして私も思わず
彼女を抱きしめたのです。
彼女の頭越しにふと
今出てきた店が見えました。
その扉の前には
何と私を見送って店に戻ったはずの
ミュが立っていたのです。
多分店頭で待機する為再び
出て来たのかもしれませんでした。
ミュがこちらを見ていました。
しかしその顔には
先ほどまで私に見せていた
笑顔はそこには有りませんでした。
ただ、怒ってもいませんでした。
その顔が少し悲しげに見えたのは
私の思い違いなのかも知れませんが
私にはそのように見えました。
彼女達は仕事です。
そこには恋愛感情など存在せず
ゲストは誰の物では無い筈。
私はクリスを抱きしめたまま
ミュの暗い瞳としばらく
目を合わせていたのでした・・・・。
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