(別れ)Go Go BARに魅せられて


※このブログは小説形式で
登場人物・会社・店舗名は
全てフィクションです。

アパレル業界に飛び込んだ
矢名樹 准也がリーマンを独立。

そして成功から一気に破綻へ。

再起し移住先のタイで魅せられた
ゴーゴーバーを偶然にも
経営する事になる物語です。

サラリーマンと経営者の苦悩
それぞれをリアルに描いてみました。


本編)


多分彼女の父親は私の言葉を

待っていてくれていたと思います。


そして「娘を頼むよ・・・」

この言葉は用意されていたと思います。


ただ、私が煮え切らないので

失望されたかもしれません。


男同士です。


根性や勇気の無いような男に

自分の娘は任せられないでしょう。


父親から話を切り上げるような

そんな雰囲気に持っていかれて

しまいました。


私は自分が何も言えない悔しさで

今にも逃げ出したい気分でした。


彼女は私が父親に

既に言ってくれたものだと思い


嬉しそうに自分の部屋に

案内してくれました。


彼女の部屋は2階に有りました。

2階に上がるとさらに私を驚かせました。


長い廊下が有り、奥の踊り場には

藤で編んだイスが置かれて

いたからです。


まるで旅館のようでした。


そして2階にもトイレと風呂場が

あったのです。


今では珍しくも無いかも知れませんが

その頃2階に

トイレと風呂が有る家など


芸能人ぐらいしか住んでいないと

思っていました。


おまけにその風呂は大きく

バブルまで出る装備が

施されていたのです。


昭和50年代の話です。


もう決定的でした。

私の家とは格が違い過ぎました。


彼女の部屋に入り彼女が

アルバムを出してきて


私に楽しそうに

思い出を話しかけてきます。


ただ、私の耳にはもう何も

聞こえていませんでした。


それどころか心のどこかで

「彼女の笑顔を見るのは

これが最後かもしれない。」


そんな思いが浮かんでいたのでした。


時間が過ぎ私は彼女に

帰る旨を告げました。


「食事を一緒に。」


そう誘われましたが

食事なんて喉に通る訳が有りません。


もう遅くなるのでと

丁重にお断りしました。


家の中ではずっと

彼女の父親に対して

「結婚を前提に・・・」


この言葉を思い切って言えなかった

卑屈になってしまった

自分が許せませんでした。


家族にお礼を告げ

私は駅へと向かいました。


彼女が駅まで見送ってくれます。


帰る途中、彼女が甘えてきて

「おんぶして!」


そう言って私の背中に

飛びついてきました。


私は驚きました!!


しかし私はしっかりと

彼女の体を抱えてあげたのです。


私は背中に彼女の

そのぬくもりを感じながら

涙が出そうになりました。


「俺には無理だ。」

「俺には彼女を手に入れる力は無い。」


「格差。」

この現実を叩きつけられ

私はこの先もう彼女とは

会う事は無いだろう。


そう思いながら帰っていたのです。


何も知らない彼女が

私に甘えてくるのが

もう辛くて・悲しくて・・・


必死で涙をこらえながら

彼女を背負って夜道を歩きました。


私の背中で彼女が言ったのです。

「大好きだよ。」


私はその言葉に涙をこらえながら

頷(うなづ)くのが精一杯でした。


そして心の中で

「ありがとう。さようなら。」

そのように呟きました。


36年経った今でも

あの時、彼女を背負って歩いた


あの温もりを忘れる事は

出来ません・・・。

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それでも俺はタイへ行く





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